政府は「ふくしま」の子どもの命と健康を守るために

集団疎開の実施を即刻決断すべきである

―憲法記念日、子どもの日を前にして訴えるー

近藤幸男      

 

5月3日の「憲法記念日」、5日の「子どもの日」が目前に迫った。政府はこの記念すべき時を捉え、従来の行き掛かりを捨て、放射能と闘いながら生き継いでいる福島県下の小中学生の集団疎開実施へ、方針の大転換を決断すべきである。

「一介の市民のくせに出過ぎたことを」と、いぶかる向きもあるかもしれないが、私は過ぐる戦争・殺戮の時代を凌いでいま90歳を越え、天命の日々を生きる一老人であるが、私の背後にはアジア全域の2000万人を超える大戦犠牲者の無念の叫びがある。その悲痛な思いが私をして言わしめているということを是非わかってほしい。

 

放射能は人類のみならず、すべての生命体とは異質、異次元の存在である。それを人間の社会生活に取り込んで、始めは敵対者を壊滅させる大量殺人兵器として、のちには無限大のエネルギーを生み出す道具として駆使しようとした。そこにわれわれ人類の犯した根本の過ちがある。いまこそ核兵器の廃絶とともに、原発ゼロの時代を切り開かねばならない。2度の原爆の惨禍を受け、今またレベル7の大事故を経験しつつある日本人が、今こそこの真実の声を何ものも恐れることなく云い放たなければならない。

 

とはいえ、「それは容易ならざる大事業」であるからと、政府はもとより福島県当局も「一部の人間の発言など聞く耳持たぬ」態の「無視」を持って対応してくるであろう。はたして現行の教育指導体制のまま月日の経過を待つだけでよいのであろうか。10年後、20年後の次世代の人々の運命の安穏を保障できるのか。事態は重大な展開を示しつつあり、識者の憂慮の声は今急速に高まっている。その識者の声の紹介に入る前に、県当局の公式発表やローカル紙、インターネット情報を通じて得た私の知る限りの被災地の現状を見ておきたい。

 

すでに今年2月、県立医大で甲状腺のエコー検査をした福島第1原発近隣4市町村の小中学生3765人のうち約30%に、また札幌で同様な検査をした自主避難の小中学生170人のうち約20%に甲状腺に「しこり」や「嚢胞」といった病状が発生していることは、一部の週刊誌でも大きく報道されたからご存知の方もいると思うが、そのことの持つ意味合い、今後の展開の予測については、大きな不安を抱きながらも、県立医大の先生方の流す「放射線とは無関係」「良質のもの」という談話や誤った報道のとりことされている人々が大部分のように見える。

 

だが集団疎開裁判を闘っている父母たちやその周辺では、成人に近い男の子3人の突然死の話や、鼻血が止まらなくなったり、下痢が何日も続いたり、原因不明の発熱が再三おこるなど、子どもの健康状態への不安が、日常的な会話となっているという。筆者自身の直接の見聞によっても「福島民報」は4月22日付紙面に「鼻血は被曝が原因か」という見出しの囲み記事を掲載、『放射線被ばくで鼻血がでた』と心配されていますが、放射線が原因ではありません」との県放射線リスク管理アドバイザーの回答を掲載している。この報道は、たまたまあった一人の母親の疑問に答えたということとは受け取れなかった。

 

いま、チェルノブイリ大事故の現地で調査研究をされている複数の外国人医師と医学者が、先々週来、福島、東京、北海道など各地で貴重な巡回講演をされているが、その内容は別の機会にお知らせできると思うので、ここでは日本人の医師である二人の方が、福島県下の放射能汚染の現状をどのように見ておられるのか、また「政府と全国民への事実上の警告」として筆者が受け止めた発言内容を紹介したい。

 

その一人はかつてチェルノブイリの大事故の際、5年半も現地にとどまって子どもたちの治療に専念された医師であり、現在長野県松本市の市長をしておられる菅谷昭氏であり、もう一人は自らも広島の原爆被爆者でありながら今日まで被爆者治療の先頭に立ち、原爆による内部被曝を「ぶらぶら病」として28個の裁判で、ことごとく認めさせるという大仕事をされた95歳の現役の医師、肥田舜太郎氏である。それぞれの発言の要点を以下に列挙したい。

菅谷昭氏談

菅谷氏は最近の「金融ジャーナル」の電子版紙面で、編集局長島田一氏のさまざまな質問に答えて氏の見解を表明しているので箇条書的に要点を列挙する。

 

       政府は汚染状況を全部公開していない。一番心配なストロンチウムも甲状腺ガンを引き起こす放射性ヨウ素の汚染マップも出していない。

       放射能汚染基準として世界中が採用しているチェルノブイリ基準を採用しないで1年がたってしまった。被曝し続けていることを思うといたたまれない思いだ。

 

  政府の対策委員会には現場のことを知っている人がいない。机上の空論だ

8月に一般公開したセシウムの汚染マップを私が作成したチェルノブイリの事故10年目の放射能汚染図と比較するとよくわかるが、今回の福島の事故で放出された放射性物質はチェルノブイリの10分の1~2程度と言われてきたが、2枚の図を比較すると福島の方が汚染度合いが高い。こうした真実が徐々に住民に知れてきて、最近では福島から移住する人が増えてきている。チェルノブイリの低線量被曝地で起こっていることを知れば当然の選択だろう。

 

       ベラルーシでは原発から90キロ離れた軽度汚染地域のモーズリ(私も住んでいた)では、子どもたちの免疫機能が落ち、風邪が治りにくくなったり、非常に疲れやすくなったり、貧血になるといった、いわゆる「チェルノブイリエイズ」の症状が出ている。このモーズリに相当する汚染地域は地図で見ればわかるが、福島市郡山市も含まれている。チェルノブイリエイズのような症状を発症する可能性も否定できない。

 

  国は除染に過度に期待しすぎている。安全レベルまで除染するには数十~数百兆円かかるのではないか。福島は7割が山林である。その山を完全に除染するには木を根こそぎ切り落とし、岩肌が見えるほど土を削る。畑も20センチ削ればいいとしても肥沃度が落ちてしまい、作物は育たなる。それくらい徹底して行う必要がある。結局数十年以上かけて待つしかない。子供たちだけでも4~5年程度安全な地に移してあげるべきだ。せめて半年に1回ぐらいは無料の検診を行い、発病を早期発見して助けるべきだ。

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肥田舜太郎氏談(扶桑社新書「内部被曝」12年3月刊760

(じわじわと命を蝕む低線量被曝の恐怖)

私は95歳になる内科医です。広島で被爆して以来、67年間、6000人以上の被爆者と向き合ってきました。その経験から皆さんにお伝えしておきたいことがあります。それは放射性物質がもたらす内部被曝の恐ろしさについてです。(中略)呼吸や飲食によって体内に取り込んだ放射性物質によって、1日24時間ずっと低線量で被爆され続けることで、どんな影響が表れるのか、医学界ではそのことについて長らく無視されてきました。

「低線量の被曝であれば問題ない」と説明する”専門家”や政治家がいます。彼らは「(被害が出るという)データがない。=問題ない」と言っているだけです。「データがない」というのはウソです。低線量長期被曝に関する調査結果はたくさんあります。それを彼らは「なかったこと」として、無視しているに過ぎません。   

            

福島原発事故の影響でこれから何が起こるか>

  福島でヒロシマナガサキと同じことが起こる。

 広島や長崎では原爆の爆発のあった幾日か後に、市に入った人も被爆しています。今の医学では診断できない不思議な病気が起こって多くの人が大変苦しみました。また長期的な影響も心配されます。50年、60年たってからガンや白血病などの悪性の病気になって、頻繁に入退院を繰り返しながら、弱って死んでゆきます。放射線とはそういう性質を持っているのです。

 

  「原爆ぶらぶら病」が東日本でも起こりうる。

福島第1ではセシウム137だけ見てもヒロシマ型原爆の168発分も放出されているのです。広島、長崎では被爆者と呼ばれている人は「原爆ぶらぶら病」になりました。今まで何でもなく働いていたものが、ある瞬間その発作が起きると、急に体が動かなくなってしまうのです。いくら体がだるいといっても周りの人には理解されません。病院でいろいろな検査をしても何も出てこない。「悪いところはないから、家で十分休養を取ってください」と言われるか、「ノイローゼ」扱いされてしまいます。広島長崎ではこういうのを「原爆ぶらぶら病」と名付けて国の責任を追及しました。(広島では2003年からこの種の患者による原爆症の認定を求める裁判がが次々と起こされ、28の裁判すべてで、(政府側は認めなかったが)裁判所は原爆による病気だと認定しました。

  女性と子どもには特に注意が必要。

  遺伝的影響の可能性も。放射能によって胎児の成長が阻害され奇形児などに。

  何か変化があったら記録しておくこと。

 

<体を侵す放射線被害>

  外部被曝は主にガンマ線原発に働く人以外は危険性は少ない。恐ろしいのは内部被曝。呼吸、飲食によって体内に取り入れられた放射性物質は、体内の組織や器官に沈着、そこから放射線を生涯にわたって出し続ける。

  ストロンチウムの毒性の強いこと。③セシウムは男性の方が蓄積しやすく心筋梗塞を起こしやすいこと。(詳細は著書をお読みください。)以上