「ふくしま」の子たちを守るために

発 言 す る       

                       近藤幸男

 

週刊文春3月1日号のトップ記事「郡山4歳児と7歳児に甲状腺ガンの疑い!」の報道は、「ふくしま集団疎開裁判」の支援を始めたばかりの私にとって、衝撃的であった。文春報道が正確であることを前提として、その要点を列挙すれば次のようになる。

  福島第1原発の事故を受けて札幌に避難している親子309名(子供139名、大人170名)を対象に、地元の内科医がボランティアで甲状腺の超音波(エコー)検査を行った。

  内科医は「自費で技師を2人雇い、甲状腺専門医と一緒に、3日間、1日約100人づつ検査した。検査の方法は福島で現在行われている検査と同じ方法」にした。

  「しこりのあった7歳女児と4歳男児の2人に加え、19歳以上の「大人」9人の、計11人に、甲状腺ガンの疑いがあった。うち大人一人はすでに甲状腺ガンが確定、切除手術も決定」した。

  「7歳女児の甲状腺に8ミリの結節(しこり)が、微細な石灰化を伴って見られた。」この画像を見た専門医は「児童にはほとんどないことだが、ガン細胞に近い。2次検査が必要。今までこんなのは見たことがない。」と言い、「2歳の妹にも、ガンの疑いはないものの、2ミリの石灰化したものが発生」していた事実を告げた。この姉妹と母親が郡山を離れたのは昨年6月であるという。

 

 以上が、福島県民が自主疎開した札幌で、ボランテア医師らの自主的な検査によって発見された事実である。以下これを第1の事実と呼ぶ。

             

 一方、札幌での緊急事態の発見とほぼ同じころ、福島で第5回「県民健康管理調査検討委員会」において、18歳以下の県民の甲状腺検査の結果が発表された。それによると

 検査した3765人中、26人から、5・1ミリ以上の結節(しこり)及び20・1ミリ以上の嚢胞(のうほう)がに見つかったが、それらは「すべて良性」であった、という。

そして、福島県立医大の鈴木真一教授は「(上記の)26名はいずれも6歳以上である。5ミリ以上の結節、20ミリ以上の嚢胞が5歳以下で見つかることはありえない。」と会見の席上で明言した、という。

付け加えて言えば、この18歳以下の福島県民の甲状腺検査は、3年間かけて1順目の検査が行われるという。(その後時間をおいて追跡調査を行う必要がある)上記の数字はその進行途中での中間の検査結果の発表である。

   

これが福島県当局の手で進められている全県的検査結果であり、

以下第2の事実と呼ぶ。

 

以上に述べた2つの事実は必ずしも一致した方向性を持っていない。一致しないだけではなく、深刻な問題を全国民につきつけているのだと思う。

それは一口に言えば、札幌での検査結果は、福島県民の放射能の内部被曝に万全を期して対処するには、「3年間一巡り」の甲状腺検査だけでは危ういのではないかという懸念を提起していると見なければならないからである。

 

被爆直後の県民の内部被曝の実態は何ら調査されていない。3度にわたる水素爆発によってまき散らされた放射能を帯びた物質は、風に乗って主として北西の方向に流れ、何も知らされていない多くの県民を襲った。住民の放射能汚染が問題になったのは数日もたってからである。この間多くの県民は外部被曝だけでなく呼吸と飲食物による内部被曝も避けるわけにはゆかなかった。政府も、県も内部被曝については何の検査も、調査もしなかった。

それだけに、通常は起こり得ないとされている乳幼児の甲状腺異常が起こりうることが、札幌の甲状腺検査で発見される事態となったのである。検査は3年近くも待たずに母親たちの要求に即応して、可能なかぎり迅速に行うべきではないのか。それによって異常が発見されなければそれに越したことはない。父母たちの不安を拭い去るだけでも大きな効用があるといわねばならない。

 

報道記事の中にも甲状腺専門医の言として「原発事故が起こった今、『いままで見たことがないもの』を見ている可能性がある。従来の基準が絶対とは言えないのでは」との言も紹介され、また別の甲状腺学会関係者の発言として「放射線に対して感受性の高い1歳や2歳の子どもが、事故から1~2年後まで受信できなくても大丈夫と言い切れるかは疑問」「早期検査が望ましい」との声をを紹介している。

 

ここで一つ確認しておきたいことがある。それは私が直接に国際機関にあたって調べたことではないが、週刊文春の上記の報道によれば、「小児甲状腺ガンは、チェルノブイリ原発事故で唯一公的に認められた被曝による健康被害であり、事故から10年後の1996年、IAEA (国際原子力機関) WHO(世界保健機構)EU欧州連合)の三者による合同国際会議において「原発事故と因果関係が明らかである」と総括されて」おり、しかもその被害の実態は旧ソ連ベラルーシにおいて「事故前の10年間に小児甲状腺ガンを発病した子供の数7人に対し、事故後は508人に上っている」という、驚くべき数値を発表していることである。

 

しかし、福島での現実を見ると寒々しいものを感ぜざるを得ない。県民健康管理検討委員会座長でもある山下俊一福島医大副学長は全国の日本甲状腺学会員に対して要旨次のようなメールを送ったことを自らも認めている。「(3年間で一巡の県の甲状腺検査の結果に関連して)先生方にも、この結果に対して、保護者の皆様から問い合わせやご相談が少なからずあろうかと存じます。次回の検査を受けるまでの間に自覚症状等が出現しない限り、追加検査は必要がないことをご理解いただき、十分にご説明いただきたく存じます)というのである。

セカンドオピニオン」にはかかわるな、という抑止のメール以外の何物でもないではないか。(註・セカンドオピニオン―より良い治療法を見出すために主治医以外の医者から聞く意見) いまこそ総力を挙げて、原発被曝者の命と健康を守らねばならない時に、どのような神経をお持ちの学者なのであろうか、疑いたくなる。すでに福島県内においては、県の検査の順番をじっと待つ以外に道はなくなっているとも仄聞している。

検討委員会の医学者としては、3年間にわたる甲状腺検査を整然、粛々と進め、膨大な検査資料を精査することに大いに情熱をもって立ち向かっているのであろう。それはそれとして大事なことであり、世界的意義を持つ事業であろう。しかしそれに違いないとしても、チェルノブイリと同等の大事故を現に体験し、県民の内部被曝はいまも進行中なのである。人々の発病を防ぎ、不安をなくすことこそが、東電と、国、県の第一義的課題であることを決してないがしろにしてはならないのである。検討委員会に席を連ねるものは、このことを深く銘記すべきであると思う。(2012.3.5)