「ふくしま」の子らを守るために

声を大にして・再び発言する

                 近藤幸男

 

私は3月5日付のこの欄で、「週刊文春」3月1日号のトップ記事「郡山4歳児と7歳児に甲状腺ガンの疑い!」の報道に関連し、原発事故による放射能汚染では「内部被曝が重大」、子どもらにとっては「3年一巡りの甲状腺検査を待つだけでは危ういのではないか」との問題を提起し、県当局に対し「3年がかりで一巡する」甲状腺エコー検査だけでなく希望者には要求に応じた検査を随時すべきではないのか、と強い批判的疑問を投げかけた。

ブログを読まれた方は大方同意をされたと思うが、一老人のこの心配がたんなる「杞憂」などではなく、まさに今日当面する問題の図星をつくものと言ってもよいくらいの問題提起であったことを、2月末に仙台高裁に急遽提出された矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授の意見書(4)のコピーに目を通す機会を得て、私は改めて確信した。私は仙台高等裁判所が郡山をはじめ重度の放射能汚染地域の小中学校の集団疎開の必要性と緊急性を認め、速やかに判決を下されるようという願いを、ますます強くしている。

<再録資料>

福島と札幌で行われた検査については、本ブログの前号で週刊文春の記事を引用して述べているが、福島の検査の対象地域が不明確であったり、札幌の検査の対象者が福島からの自主避難者だけではなかったことなど、不正確な部分も含まれていたので、矢ヶ崎意見書に基づいて一部訂正して正確なものとし、改めて再録すると次のようになる。

福島(南相馬市川俣町、浪江町、飯館村)の18歳未満の3765

  (内)2622人(696%)には しこりや嚢胞はなかった。

     1117人(297%)に 5ミリ以下のしこりや20ミリ以下の嚢胞があった。

      26人(07%)に 51ミリ以上のしこりや201ミリ以上の嚢胞があった。

 札幌(福島県からの自主避難者ほか)の18歳未満の170

  (内)136人(800%)には しこりや嚢胞はなかった。

      30  (176%) に 5ミリ以下のしこりや20ミリ以下の嚢胞があった。

      4人 (23%)に 51ミリ以上のしこりや201ミリ以上の嚢胞があった。

 

以下に矢ヶ崎意見書(4)の要点を列挙して、ブログの読者が問題の所在を正確に理解されるのに少しでも役立ちたいと思う。しかし問題はかなり専門的分野にわたり、かつ国際的な意見対立をも含むものであるだけに、少なからぬ困難が付きまとっているように思う。疑問点の提示だけに終わることもあると思うが、ご寛恕を乞いたい。

 

      矢ヶ崎意見書(4)のの概要

 

標題―子どもの甲状腺「しこりと嚢胞」は健康保護体制の遅れを警告する―

 

矢ヶ崎氏は「はじめに」のなかで要旨次のように問題の所在を指摘する。

昨年9月には、チェルノブイリと比較すべき福島における子どもの被害のデータがなかったが、私は福島においても子どもの甲状腺疾病と甲状腺腫の発生のありうることを警告した。それが半年を置かずに具体化した。子どもの甲状腺検診の実施によって、2か所からその指摘を裏付けるデータがでてきた。

(1)            1月25日に県が発表した福島第1原発周辺4市町村の子どもの検査   結果

(2)2月23日ごろ「週刊文春(31日号)に発表された札幌の内科医に  よる主に自主避難者を対象にした甲状腺検査

 矢ヶ崎氏はそれぞれの集団の検査で30%と20%に「小さいながらもしこりと嚢胞を確認した」ことを指摘し、このしこりと嚢胞をどう見るかについてチェルノブイリ原発事故後に周辺地域に記録されたデータと内部被曝の科学的論理に従って解析する」として

以下のように重要な指摘をしている。

(1)ベラルーシの市民の臓器に蓄積されたセシューム137について

1997年(事故後11年)に死亡した市民の病理解剖の結果として

内部被曝で体内に入った放射性セシュームは

心筋、脳、肝、甲状腺、腎、脾、筋、小腸

に蓄積されていた。特に甲状腺には一番多く蓄積され、子どもの蓄積量が大人よりはるかに多いことも特徴である。

このことは福島原発事故の後、東北地方や関東地方で多数訴えられている多様な症状(鼻血、喉の痛み、気管支炎、下痢、血便、等々)はすべて放射線内部被曝が起因している可能性をしめすものと見なければならないこと。

 (2)またこれらのデータは、福島原発事故後にあらわれている甲状腺のしこりや嚢胞がこれから現われるであろう「発ガンなどの健康被害」を暗示しており、子どもの健康保護を急がねばならないこと。「教育を安全な場所」で展開するため、「疎開」が求められていることを示すもの、と厳しく指摘しています。

 

事態は極めて深刻だと思うのです。世論がそれほど騒がないのは、誰もが人間の体の中で進行中の内部被曝の実態を絵に描いたようには思い浮かべられないからだと思います。

矢ヶ崎先生が東京民報の記者に語ったお話(111120日号)からそのごく一部を転載させてもらいました。内部被曝の恐ろしさが身に迫ってきます。

      矢ヶ崎先生のお話(一部)

 「放射性のホコリを吸い込んだり飲み込んだりした場合。人工の放射性物質は天然のものと比較して集団をなして微粒子の状態を取ることが特徴で、直径が1ミリの千分の1のホコリには1兆個の原子が含まれます。体内に入った放射性ホコリから放射線が発射され被曝します。これが内部被曝です。外部被曝は主にガンマ線だけに被曝しますが、内部被曝では飛ぶ距離は短いが物質との相互作用が強いアルファ線ベータ線で体内の組織が被曝することになります。内部被曝の場合は密に分子切断が行われるので、DNAの鎖が2本とも切断され、生物学的修復作用の働きで間違って再結合する可能性が増大します。これを変成と言いますが何十回も変成が繰り返されるとガンが発生するといわれます。」(以下略)

                       2012,3,30